脊髄性筋萎縮症のケア |
脊髄性筋萎縮症(SMA)専門医と、あらゆる分野の医療スペシャリストによる集学的ケアにより、SMAのある人の健康状態や生存率を改善できる可能性があります。
SMAへの対処(ケア)にはさまざまな局面がありますが、子どもに現れる症状はひとりひとり異なるため、両親が意思決定を行うのが難しいことがあります。病気に対するケアの選択は両親や主治医が行わなければならず、状況やケアで目指すゴールによって、選択が変わることもあります。適切なケアの選択肢に関してご質問があれば、必ず主治医にご相談ください。
呼吸ケアはSMAにおいて非常に重要です。呼吸筋の筋力低下は、呼吸や咳を妨げ、感染症のリスクを高めます。呼吸ケアには、非侵襲的ケアと侵襲的ケアがあります。
非侵襲的ケア
侵襲的治療への移行を遅らせるものです。人工呼吸器や二相性陽圧換気(BIPAP)装置などの専用装置は、口や鼻を覆うマスクから肺に持続的に気流を送り込むことができます。咳や分泌物排出を介助する器械を、自宅で使用することもできます。
侵襲的ケア
気管内チューブを口から挿入(挿管)するか、または頚部から直接気管に小切開(気管切開)を行うことによって、肺への気道を確保することです。
SMAのある子どもは、呼吸のみならず、噛んだり飲み込んだりする能力が弱くなることがあります。すると、食べ物や飲み物が誤って肺にはいり、誤嚥性の呼吸器感染症がおこるリスクが生じます。必要な栄養や水分をとるために、一時的または長期的に栄養チューブを胃や腸にいれることも選択できます。
栄養チューブには一般に2タイプあります
経鼻チューブ(NG)
鼻から挿入して、直接胃に栄養を送ります。一般に、栄養チューブを必要とする期間が短い子どもに使用します。簡単に交換できます。
胃ろうチューブ(G)
手術により腹部の皮膚を通して直接胃にチューブを挿入します。メンテナンスは比較的簡単で、長期にわたって栄養サポートを必要とする子どもの選択肢となります。
脊柱側弯症(脊椎の湾曲)は筋力低下によっておこるもので、SMAのある子どもではよくおこる問題です。整形外科医は、姿勢サポート(装具)または手術を勧める場合があります。
SMAのある子どもは、体を動かすための筋力が弱すぎて、そのままにすると筋肉や関節のこわばり(筋拘縮、関節拘縮)がおこり、体を動かせなくなる可能性があります。理学療法では、柔軟性や全般的運動機能の改善に役立つ運動療法を行います。骨強度の向上や、股関節や膝関節、足関節の柔軟性を維持するために立位器具を自宅で使用することもあります。
SMAケアに関する現行のガイドラインでは、最善のケアは多くの専門家やかかりつけ医師の支援によって実現すると言われています。SMAのある子どもはその症状の重症度がそれぞれ異なるため、ケアにかかわるメンバーとその関与のレベルは、個々のニーズや状況に応じて時間とともに変わることがあります。最善のケアチームを作るときに、このチームの重要なメンバーとして、両親が、主治医としっかりと連携することが大切です。
以下は、ケアチームメンバーの例です。実際のケアチームのメンバーは、SMAのある人ひとりひとりで異なります。
小児神経科医はSMAの診断、治療方針決定の中心的な役割をします。多くの場合、小児神経科医はSMAのある子どもの両親に最初に診断を告げる医師です。小児神経科医は神経系(脳、脊髄、筋肉、神経)の障害の診断や治療を専門としており、ケアチームの必須メンバーです。神経科医は、小児のSMAの遺伝子検査結果が陰性であった場合に、他のタイプの筋疾患の可能性を調べるために筋電図検査や神経伝導検査を行うことがあります。
かかりつけ医(一般小児科医など)は神経科専門医師やケアチームメンバーと連携しながらSMA患者の日常の診療、治療を行うケアチームの重要なメンバーとなります。
栄養管理は、発育や運動機能の向上のために重要です。SMAのある子どもが栄養過多または栄養失調を生じると、骨強度や発育、総合的運動機能に影響が現れる可能性があります。SMA専門医は、SMAのある子どもの栄養必要量を理解するために管理栄養士と連携することを勧めています。
整形外科医は、骨や関節などにかかわる疾患の外科的治療や非外科的治療を専門としています。SMAのある子どもは、姿勢サポート(装具)や手術が勧められるような整形外科的障害がおこる場合があります。
ストレッチや筋力トレーニングは予防的ケアアプローチの重要な要素です。理学療法士は、SMAのある子どもの可動域(かどういき)、筋力や運動機能を評価します。また、呼吸や摂食(せっしょく)に適した姿勢を維持するのに役立つ運動や補助器具を勧めることもあります。
遺伝カウンセラーは、SMAの影響や遺伝学的背景に関する情報を提供します。SMAの発症や遺伝の確率について、また、家族計画に関する選択肢についてアドバイスを行います。
多くの場合、臨床遺伝専門医がケアチームの一員として、遺伝カウンセラーと連携します。SMAの遺伝的要因の診断のための検査を行ったり、親や兄弟姉妹に遺伝子変化の検査を勧めたり、遺伝的リスクや治療選択肢に関するアドバイスを行ったりします。
理学療法士が運動や補助器具によって総合的運動機能の向上を支援するのに対し、作業療法士は着衣、入浴、道具の操作など、日常的作業に関する自立性の向上を支援します。作業療法士は、自助具または自宅の改修(スロープの設置、戸口の拡大など)を勧める場合があります。
小児麻酔学も、気管切開や脊椎安定術(せきついあんていじゅつ)などの手術が必要なSMAのある子どものケアにおいて重要です。小児麻酔科医は、術前、術中および術後のケア計画とともに麻酔の実施を担当します。
※モデル写真